花の写真 by のの
(注) 歌詞 でありません。曲の意味を勝手に解釈したものです。
僕と君の、切れそうで切れない細い赤い糸は、
この小さなカメラがつないでいる。
君が遠くの町へ入院して、二年目の春が来た。
僕は春になると、このカメラを抱えて君のためにあの原っぱへ行って、
あの花を撮る。
病院に一人居る君が、少しでも春を
感じられるように。
花の大好きな君が、ちょっとでも幸せになってくれる
ように。
そういえば去年もあの花を、あの花の写真を、
どうでもいいような文そえて、
黄色い封筒に入れて送ったなあ。原っぱへ走りながら思った。
原っぱに着くと、あの花を探す。去年咲いていた場所、その近く。
また同じ 花が咲いていた。
君の好きな、この花。
君がまだこの町にいたころ、教えてくれた。
誕生日にあげたら、すごく喜んでくれた、この花。
僕は静かに、シャッターを切った。
家に帰って、現像を始めるとすぐ、外は曇り、雨が降り出した。
引き出しの、一番奥にしまいこんでいた黄色い封筒を取り出す。
少しほこりがかかって、薄汚れていた。
束の中から一枚引き抜いてほこりを払い、現像したばかりの写真を
そっと入れた。
ちょっと恥ずかしくて、文はそえられなかったけど。
ポストに行くころには、空は晴れて、雨があがっていた。
街路樹が騒ぐ音の中、靴擦れの痛みも気にせずに、
出来たばかりの、
水たまりを飛び越え、僕は速足で歩く。
重い病気にかかった君は、もう長くない。
認めたくないけど、わかってる。
でもやっぱり悲しくて、鼻がツンとくる。
この写真を送るのだって、終わりが来るだろう。
また同じ、花が咲いたよ。
いつか、本物のこの花を、君と一緒に見られる日が来るといいね・・・
そえられなかった言葉を、呟いてみる。
封筒をそっと、ポストに入れる。
僕の大事な君に、届きますように。
ポストに向かって、小さく拝む。
こんなことしかできないけれど、
花の大好きな君が
笑いますように。
雨のあがった空は、鮮やかに澄みわたっていた。
僕らの明日も、澄みわたるといいね。
ののさんからの投稿です。