めざめ (作者:あつこ)
めざめ【2】
ここにもたちこめる花の香り、それと秋と冬の風の匂い
ツンとするような夜風が少年を包むと同時に目の前に人が居るのに気づいた
後姿だけだけど、髪の毛を二つに肩のところで結っている、女の子だ。
あの格好は、地元の中学校の制服だ。
暗くって顔は見えない、
でも俺にはすぐに分かった、「あの人、泣いてる」
クラスの女子が泣いてるのを見たことがある。
でもそれとは違う、もっと重くて深くて、悲しい、涙。
足がすくんで、動けなかった。
このまま、ばれない内に引き返しておこうと思ったけどそれすら出来ない。
風が吹くたび、その人の髪が靡いて、ハッと、眠りから覚めるような気持ちになった
橙色の甘い香り。冷たい風、冬の匂い。
「・・・・・誰?誰かいるの?」
その人はゴシゴシ、と目を擦りながらこっちを振り向いた、ああ、見つかってしまう。でも動けない
冷え切ったような目で僕をフン、と見てその人は驚きもせずに言い放った
「あんた、誰よ。」ぶっきらぼうにその人は言った
「え・・・?矢、矢島翔太・・・・。」
迫力に負けた僕は思わず答える
「ふーん、何階に住んでんの?」靡く髪をうっとおしそうにかきあげてまた聞いた
「12・・・階。」
「良いな、羨ましい」
その人の目は丸くって、頬は冷たい風に吹かれてたからか、桃色に染まっていた
「こっちに来なさいよ。」その人がそう言うと俺は言われるがままにその人の方へ歩き出した
その人の横に行くとなんだか温かくって、良い香りがした
「さっき、12階が羨ましいって、何で?」と言うとその人はフフフ、と笑って俺をじろりと見た
「人ってね、ビルの12階相当のところから落ちれば、ほぼ確実に死ねるのよ。
ウチは3階、3階から飛び降りたって下手にケガして親に怒られるだけでしょ?だから。」
「おねえさん・・・・・死にたいの?」
小5の俺にとっては「死」を未だによく実感出来なかった
ただ幼稚園のころひいばあさんが亡くなったとき、「悲しみ」よりも「恐怖」が先に来ていた
人が誰もが恐れる「死」を彼女は自ら望んでいた
「んー、そうだな、「死にたくない」って言ったら多分嘘になるね。」
そう彼女は言おうとしていたんだと思う、だけど風の音で最後の方は聞こえずに、ただニンマリと薄気味悪く笑っていた
あつこ 著