スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ【8】

サオリさんが、泣いた

俺はどうしたら良いのか分からぬまま、寂しそうに残った左手を握ってみた
体温と同時に、気持ちやドキドキも伝わったら良いな、って思った

泣き終えると彼女はすぐに立ち直ったようにして立ち上がり、段差を登って柵に手をかけた

「友達がね、好きな人出来たんだって」
―――え?と俺は言ったけどそのままサオリさんは話を続けた
「で、協力してねって言われたんだけどその友達が好きな男の子―――私のこと好きなんだって」

「私そんなの全く気づかなかったし、そんな気さらっさら無かったのにさぁ、
・・・ムカつくんだって、私のこと。」

「そんな、」と俺は言いかけてサオリさんは振り向いて笑いながら言った
「でもさぁ、そんなの私どうしようも無いじゃんねぇ?わざとやったんじゃ、・・・・無いのに、さぁ」

「サ、サオリさんは悪く無い、きっと」俺はたどたどしくそう言うと
サオリさんはフッと悲しげな微笑を浮かべて小さく「ありがとう」と言った

俺は、サオリさんが俺なんかにそんなことを言ってくれたのが嬉しかったのと同時に
もっと、もっともっと知りたい、という感情が渦巻いて喉の奥から声として出た
「もっと、聞かせて。サオリさんのことが、知りたい」
あんまりとサラッと出たので俺は自分自身に少し、驚いた

でも、確かにもっと知りたいと思った。
もっと知って、もっと近づきたい。話したい。

ああ、そうか。

この気持ちは、きっと――――。

遠くから甘い、香りがした。そんな気がした
俺はその匂いに誘われるように自分の想いに気づいた

あつこ 著