スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ【22】

要するに大切なのは、タイミング。
早すぎてもダメだし、遅すぎたらもっとダメ。
自分で丁度良い時刻を見つけることが大事。


昨日は確か、9時過ぎだった でもその頃にはサオリさんはもう<そこ>に居たわけだし。
でも同じ時刻過ぎてエレベーターでバッタリ、っていうのは一番ダメだし。


靴を履き、ドアを開ける。そして少し歩いてエレベーターまで。
あとは「上」を指すっボタンを押し、中に入って屋上まで行くだけ。
こんな簡単なことに大変な労力を使った


次、時計の長針がまたここに来たら、次こそは行こう―、何度思ってためらったかは数え切れない
そしてついに思い立ち、行動してボロの扉の前に立つ。
扉を開ける前に大きな深呼吸をして、ドアノブに手をかける
ガチャ、ガチャガチャ。と強めに前後に揺らせばすぐに開く

ここは一昨日までは俺1人の秘密の場所だった、
でも今は違う、俺だけじゃ無く―


扉を開けて辺りを見回すがそこには誰も居なく、殺風景なコンクリートの床だけが広がっていた
気がぬけて、ぼうっとフェンスの前までゆっくり歩いた
そこには、ただただ夜の風景とポツリポツリと零れる家々の灯。

夜の街に浮かび上がる孤独と焦燥感。
フェンスに手をかける、キシキシと音をたててフェンスが鳴る

「人ってね、ビルの12階相当のところから落ちれば、ほぼ確実に死ねるのよ。
ウチは3階、3階から飛び降りたって下手にケガして親に怒られるだけでしょ?だから。」

嫌なタイミングでサオリさんの言葉を思い出した、そうか。俺ここから飛び降りるんだ
気持ちいいかな?嬉しいのかな?それとも少しばかりは怖いのかな?


分からないけれど、サオリさんと一緒なら何でも良いかなあ。
風が冷たい、冬が来る。



「あー・・・・腹へった・・・・」そういえばろくなもん食べて無かったのを思い出して、
フェンスのすぐ際に座りこみ、空に浮かぶ黄色いオムレツのような月を眺めた

あつこ 著