スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ【26】

「満月の夜ってさあ、なんか怖いよね」
突然俺はそんなことを呟いてみたサオリさんはなんだか嬉しそうに反応するのがなおさら嬉しかった
「あ、分かる。なんか艶かしいって言うのかな?
こう、私、自分の中から何かが生まれてくるような感じになる。」
「こうさぁ、月ってなんか怖いよねぇ。全部お見通しっていうか。」
「なんかね、悪事とか全部見られているんじゃ無いかって思わない?私けっこー思うんだけど」
「あー分かるわかる!今日は、雲の動きが早いからなおさらドキドキする。」


ドキドキするのは、君のせいだよ。


こんな感情、サオリさんが見つけさせたんだよ。ずっと見えないとこに隠していたのに。
知らないフリをしていたのに、

さまざまな感情がサオリさんによって目覚めて、俺の中で確かなものとして変わっていった
恋っていうのは本当に凄いものだと思う。
喜び、悲しみ、嫉妬、切なさ、やるせなさ、ドキドキにめまいがするほど『好き』という感情――
その全てはたった一つの恋によって知ることが出来る
ほら、もうこんなにドキドキしている。自分の心臓の音に耳を澄ませる
ああ、生きているんだ。俺。 恋、しているんだ。
今更って言われるかもだけど改めて実感した
この命も、想いも2日後にはサオリさんと一緒になって空へ投げるんだ。
朝陽を見ながらが良いな、夜中ずっと朝を来るのを待っていたいな。
手を繋ぐんだ、あの細い指に俺の指を絡めてやるんだ。

朝陽はきっと、声が出ないほどきれいなんだと思う。
街のマンションやビルの隙間から零れ、満ちていく朝の光

突き刺すような寒さから少しずつ太陽の暖かさを感じて、サオリさんの手の熱と一体になったとき、
俺は、死ぬ。


――――死ぬ?死ぬって、なんなんだろう?
ふっと頭の中をそんな疑問が過ぎったけれど、考えるのは怖いから
気づかないこととしてほっておこう、
サオリさんが横にいる、笑っている、ああ俺今サオリさんと喋っている。
それだけでいい、 あとはもう何もいらない。

あつこ 著