スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

君に触れたい、君に触れない (作者:仲野フレン)

君に触れたい、君に触れない 【3】

その日の帰り道。

私はいつものように、彼の右側に並んで、一定の距離を保って歩く。

でも、その日は、いつもと違った。

彼が急に、2、3歩前に出る。

彼は手を差し出し、

「さぁ!」

とほほ笑む。

私は胸がいっぱいになった。

――苦しいのに、私のために――。

私は彼の手をとった。と、とたんに彼の顔が歪む。

――!

私はすぐさま彼の手を離した。

「やっぱりだめだよ!」

私は泣きそうになる。

「ごめん……」

「私、十分だよ!もう無理しなくていいから!」

「ごめん……」

「もう、今日の君、謝ってばっか!」

「ごめん……」

と言った後で彼ははっとした。

「また、ごめんって、言っちゃった」

「いこっ!」

私は彼に顔を見られないように、彼を置いて早足で歩く。

「怒ってるよね?」

後ろから彼の声がする。

「おこってなーい!」

「うそだー!」

私は目から涙がこぼれそうになりながら、彼の数歩前を歩く。

「俺、もっとがんばる!いつかお前と手ぇつないで歩けるようにさぁ!」

私は立ち止まった。

「君は、そのままで、いいんだよ!」

振り返らずに私は言う。

「……え?」

今度は彼のほうを振り向いて言う。

「他の人たちとおんなじじゃなくていいんだよ!」

「……そう?」

「いいよ!いいんだよ!」

彼は微笑む。

「お前は強いなぁ!」

「……君のおかげだよ!」

「……!」

「君に出会わなかったら、私、ちょっとしたことで不安になってたと思う!……いや、」

私は言葉に詰まりながらも続ける。

「今もだよ……今も不安だよ……」

「え……」

「君が他の子に優しくしてるの見てると、不安でいっぱいで……君が他の子の所に行くんじゃないかって……でもね!」

「でも?」

「私だけが、君のいいところ全部知ってる気がするよ!」

「それは、」

彼はまじめな顔で言う。

「俺もだよ。俺もお前のいいところ全部知ってるよ!」

「うん!」

そして、私も彼につられてまじめな口調で言う。

「私たち、ずっと一緒だから」

「……恥ずかしいなぁ」

彼のまじめ顔は、笑顔に変わっていた。

私は彼の横に並んだ。

いつもの距離で。

触れたくて、でも触れることのできない距離で。

でも、これでいいんだと今は思える。

これからも彼はみんなに優しくて、これからも私はそれを見てちょっと不安になって、彼の言葉だけでは足りなく感じたりするだろう。

でも、私たち2人にはある。他の恋人たちにはない、目には見えない、か細いけど強いつながりが。

「帰ろっか」

「うん」

そして、また歩き出す。2人一緒に。



〜おわり〜

仲野フレン 著