スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

ウィリー 〜放浪者のうた〜 (作者:仲野フレン)

ウィリー 〜放浪者のうた〜 【1】

――健常者になれなかった『障害者』という名の『サル』は赤ん坊のうちから駆除する――

もし、そんな世の中になったら、僕は『サル』であることを隠し、必死に健常者のふりをするような、そんなやつだ。――なんとなく、そういう考えで生きてきた、あの日までは。



僕は自分ではタフな性格だと自負していた。ちょっと打たれ弱い面もあるし、わけもなくいらついては夜にわめき声をあげたり部屋の障子をグーでびりびりに破ったりして、「せーしん科」に2、3度通ったことはあるが、でも、それももう数年前の話だし、それに少なくても、普通の人と同じくらい我慢強くて、なんでも普通の人と同じくらいできると思っていた。

でもそれは同時に無茶をする性格だということだった。

ある日飲み屋で友人に「お前はガマンしてばかりだが、そんな性格じゃ今にぽきっと折れて終わりだぞ」とからかわれ、僕は酒の勢いで、
「じゃあ見せてやろう、見せてやろうじゃないか、俺は不死身だ」
と持っていたセロクエル――数年前に医者から頓服としてもらって、なんとなく普段から持ち歩いていた精神安定剤――を10錠酒で流し込み、意識が飛んだ。

やっと意識が戻り、体のけだるさも取れ、会話もできるようになった頃、医者から、
「現在のあなたは非常に危険です、入院しましょう」
と宣告された。

何がどう「危険」なのか聞き返すこともなく、僕は言われるがままに、人里離れた丘の上の「せーしん科」に入院した。

最初はすごく安心した。落ちこぼれであることがとても自分にしっくりきたから。

しかし、自分ひとりだけの病室にじっとしていることが長くなったせいか、だんだんと、
「ここにいることがはたして自分にとっていいことなのか?ここにいて自分らしく生きているって言えるのか?」
と自問自答し始めた。

自問自答はやがて
「ここを抜けだそう」
という決意に変わっていった。

そんな考えを止めよう、今は心の病を落ち着かせることに専念しよう、という気持ちもわき上がってはきたが、一度「本当の自分らしい生き方」を手に入れるんだと決意すると、もう他の考えは薄まっていった。

――もう二度とここには戻るものか――

ある雨の日の夜、僕は病院を抜け出した。

――僕は孤独な放浪者。僕はいつか自分ひとりで自分を取り戻すんだ――

仲野フレン 著