スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

愛のことば3 (作者:さなぎ)

愛のことば3 【2】

外は、数日前の空襲のために、木や色々なものの燃えた焦げ臭い匂いがした。
亡くなった人だって火葬されたのだろうけど、そのにおいにはもう慣れてしまった。

まだ、空は夏の名残を含み鮮やかな青だ。

前はそんなことは思わなかったのに、自分は近いうちに死んでゆくのだと思うと、全てが新鮮で、輝いて見える。

目的の場所につくと、前とは全く違う状況に唖然とした。

家が無い。ここにあった家が、全てなくなっている。空襲のためだろうか・・・。

でも、空襲だったらこんなにきれいにはなくならないはずだ。

「あれ?何でこんなところにいるの?」

不意に背後から声がした。
びっくりしてふり返ると、そこには幼なじみの姿があった。

彼女は僕が小さい頃からお世話になっている人の娘で、その人が召集されてしまった後、一人で暮らしている。


そんな彼女の方こそ、なぜここにいるんだろう。
「いや、別に。君こそ、何でここにいるの?」

「何よ、いつも会ったらだらだら話すのに、今日に限って話してくれないなんて。」

「君が言ったら教えるから。」

「私は・・・ここに倉庫があったから様子を見に来たの。だけど、こんなありさまじゃ・・・ねぇ。国もよくここまでやったわ。・・・あんまりじゃない。」

「国って?」

「知らないの?ここの部分、全部国が焼いたのよ。」

「・・・なんで?」

「基地を作るらしいの。こんな国の極西まで軍が使うなんて、もう、とうとう国も終わりね。」

「あの、おばさんは?ここに住んでた・・・。」

「あの人は、・・・たぶん行方不明ってことになってると思う。でも国が民家を焼いたってことを隠し通すために、それなりに良い待遇は受けてるんじゃないかしら。」

「そうか・・・。」

「あのおばさん、大変だったわよね・・・。息子さん、行方不明で・・・。召集イコール死って言うのは本当みたいね。」

「・・・うん。」

そうだ、僕はそのことを伝えに来たんだ。召集されたことを。残っている知り合いは、もう彼女くらいしかいない。
「・・・召集されたんだ。さっき見たら、紙が届いててさ。」

そう言った瞬間、彼女の心が乱れたのが分かった。

「・・・うそ・・・。」
「嘘じゃないよ、そんな酷い嘘、僕はつかないよ。」

明るく言おうとしたら、とても嘘っぽくなった。

「いいじゃないか。僕が死んでも悲しむ人なんていないし。本当はそういう人間が行くべきところなんだよ。」
違う。本当はこんなこと思ってない。でも、さらに思ってもいない言葉が口から出ていった。

「それに、これはきっと医者は無理っていうことだったんだよ。いくら勉強しても。だからこれでよかったんだ。」
僕がそう言い終わると、彼女はうつむいていた顔をこちらに向け、そして思いっきり僕の頬をひっぱたいた。

さなぎ 著