スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

愛のことば3 (作者:さなぎ)

愛のことば3 【7】〜完結

「あのね・・・」
「うん。」

「ずっと、一緒にいて。」


僕だけこんなに幸せ者でいいのだろうか。

本気でそう思った。


「・・・お願い。」

「うん。一緒にいよう。」

僕も、もちろん最初からそのつもりだった。


彼女が、喜んでいるのが雰囲気で伝わってくる。


「町についたら、素敵な家にすんでね。」
「うん。」
「あなたは立派な医者になるの。」
「うん。」
「私は、あなたの帰りをおいしいご飯を作って待つの。」
「うん。」
「可愛い子供がいて、楽しい時間を過ごすの。」
「うん。」
「そして・・・」


彼女はずっと夢のような生活のことを僕に話しつづけた。

そんな彼女のことが、とても、とても、いとおしい。




いつの間にか、東の空が明るくなってきていた。
「朝焼け・・・」
「綺麗だね。」

今きた道を振り返って、言った。
進む方向は、まだ闇の中。

けれど、すぐに昼間になる。




「あ、ねぇ。」
「何?」
「明かりが見える。」

彼女の言うとおり、前方には小さな明かりがいくつか見えた。

きっとあれは町だ。

あともう少しで着くだろう。



「もうちょっとだね。着いたら事情を話して休ませてもらいなよ。」
「でも、その前に治療しなくちゃ。」
「大丈夫だよ、少し休んでからで。」
「そうかな・・・。
・・・あの町で暮らすんだね、これから。」
「そうね。」

「ずっと、ずっと、一緒にいよう。」
「・・・うん。」


まだ、僕に言えるのはそれくらいだった。



彼女の言葉の繰り返しでしかなくても、僕の言える一番良い言葉だった。



朝の風が、吹きぬける。





美しい朝焼けの中、僕は考えた。


僕は、はたして君に言えるのだろうか。
誰の言葉のでもなくて、僕からただ君一人だけへの言葉が。


「ありがとう」、「愛してる」、「いとおしい」・・・

そんな思いがつまった言葉。


これから、僕はその言葉を探していくんだろう。
今、町に向かって歩いていくように、一歩一歩。


待っていて。

必ず見つけ出す。

どれほど時間がかかっても、必ず。



君への、愛のことば。

さなぎ 著