◆全文紹介
映像を見る目(山田太一 著)
- 写真のないころ、見たことのないものを想像するのは、とても難しいことでした。
- 象という動物を、言葉で教えられても、鼻をくるりと巻いてえさを食べる様子や、あのゆっくりした重い歩き方、厚い皮ふの感じを、どこまで目にうかべることができたでしょうか。
- 今、わたしたちは、アフリカの砂漠、油田の大火災、宇宙から見た地球の姿など、映像によってたくさんのことを知るようになりました。
- 毎日が映像とともに明けくれている、といってもよいでしょう。
- そして、このような時代だからこそ、わたしたちは、映像が教えてくれることに注意深くならなければいけないと思うのです。
- ふだん、けんかばかりしている兄弟がいるとします。
- そういう二人でも、カメラを向けられたときは、にっこり笑うかもしれません。
- すると、写真だけを見た人の中には、いつもにこにこ仲の良い兄弟だなと、まちがって受け取ってしまう人がいるかもしれません。
- 同じ写真から、いつも仲良しという簡単でまちがった印象しか受けない人と、もっと深い意味や味わいを感じ取る人がいるのも、映像の特色といっていいでしょう。
- 本を読むより映像を見るほうが楽だとよく言われますが、映像のすばらしさを本当に味わうことは、それほど簡単ではないのです。
- よく考えずにたくさんの映像に接していると、仲の良い兄弟の例ではありませんが、いろいろなことで、わたしたちはまちがったものの感じ方をしてしまいます。
- テレビでかっこうのいいコマーシャルをやっている商品を、なんとなく良い商品のように感じてしまうのも、ひとつの例でしょう。
- 美しい雪の村の写真に見とれていて、その寒さ、厳しさ、不便さには気が付かないというのもありがちなことです。
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