Y (作者:優)
Y 【1】
これは私がこの病院に入院したときから覚悟していた。
あと数分で私は死ぬ。
不思議と怖くは無かった。
本来ならとっくの昔に果てていたはずの命だ。ここまで持ちこたえただけでもありがたい。
本当に怖くは無いのだ。
ただ、私の周りの両親や、彼の泣き声が胸に響いて痛い。
隣で私の手を強く握る彼の悲しく、苦しそうな泣き顔が、辛い。
私の目にも涙が溢れた。
(ねぇ、泣かないで。お願い、泣かないで…!)
うまく声が出ない。
(泣かないで。約束するから、また会いにくるから…)
「た、か」
やっと出た声はかすれていたが、彼の耳には届いていた。
「美奈?…無理しないでくれ…」
「聞い、て」
咳ばらいをするとさっきより声が出るようになった。
彼の手を握り返し、ゆっくりと口を動かす。
「崇史、私ね楽しかった。…幸せだった。だから泣かないで…?」
彼は無理だ、という風に首を左右に振った。
「崇史…人の人生は長いわ。その中で悲しいことだってたくさんある。
でも、そのことから目をそらさないで」
「俺は…悲しい人生なんかいらない…。美奈…」
「いつか、会いに行く、から…。やく、そ…く…」
そう言ったあと急に体から力が抜け、目の前が真っ暗になった。
遠くで私の名前を呼ぶ彼の声が聞こえた――…。
優 著