スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

Y (作者:優)

Y 【6】

美奈が俺のそばからいなくなってから1000日以上の月日が流れた。

その間に俺は一人で生きることに慣れるよう努力した。
「もう、美奈がいなくても大丈夫」
そう自分に言い聞かせた。


「お前、本当に大丈夫か?」

久しぶりに会った山岡にそう聞かれた。
山岡は2年前に大きな企業に入り、今も大きな実績をあげて忙しい日々を送っていた。それでも俺のことを心配し、時々様子を見に来てくれていた。
今日は仕事帰りにたまたま近くを通ったから来たらしい。

「心配性だな。俺の仕事も順調だし、平気だよ」

「…無理してるようにしか見えないけどな」

「そうか?」

大げさだな、と笑ってみせたが山岡の堅い表情は変わらなかった。

「崇史、お前最近寝てるか?寝てないよな?顔が疲れてる」

何も言い返せない俺に山岡はどうしたんだ?と尋ねてきた。
俺は山岡に弱い。山岡に心配されると自分の弱いところをすべて吐き出してしまう。
美奈がいなくなってからはとくに、俺は山岡に甘えていた。

「…夜が、怖いんだ」

「よる?」

「暗闇が怖いんだ…」

夜は真っ暗だ。
一人でいると暗闇の中に美奈の顔が浮かび、改めて自分は一人なんだと思い知らされる。
だから俺は闇の中でギュッと目を閉じ、息を潜める。
美奈がいない痛みをこらえるように。
朝まで決して目が開かないように。

「そうしてたら朝になってるのか?一睡もしないまま」

「最近はな。今まではこんなこと無かった。ちゃんと寝れてたし、美奈がいなくても平気だと思ってた…」

山岡は無言で立ち上がり、鞄の中から薬の入った瓶を取りだした。

「寝れないとき飲んだらいい。これで俺はぐっすり眠れるんだ」

ありがとう、と礼を言うと山岡は「近いうちにまた来るな」と言って出て行った。
それからしばらく俺は部屋で一人座っていた。
ついさっき山岡から渡された瓶を見る。まだ新品のようだ。
まだ外は暗くないが、はやくこの疲れた体をどうにかしたい。
二粒手にとって飲んでみた。
しばらくして俺の意識はゆっくりと遠のいていった。

優 著