スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

Y (作者:優)

Y 【7】

真っ暗な闇の中に俺は立っていた。
周りは一切見えないのに、何故か自分の体ははっきり見える。

「…?」

とりあえずその場に座ってみる。何度もあたりを確認したがやはりあるのは闇だった。
(不思議だ…)
闇の中にいるのに目を開けていられる。
いつも目を閉じて拒否しつづけてきた闇を怖いとは思わず、何故か安らぎを感じていた。

「…!なんだ!?」

遠くから声が響いてきた、そんな気がした。しかし周りには誰もいない。

―――

「!?」

やはり聞こえる。
耳を澄ませてその声に集中してみる。

―――…

小さな小さなその声が少しずつ近づいているのがわかった。

――し…

「…」

―たかし…

「!!」

その声がはっきりと聞こえたとき目が覚めた。
飛び起きて電気もつけずに真っ先に窓を開ける。外は真っ暗だったが夢の中と同じように怖くは無かった。
闇に向かって手を伸ばし、何度も名前を呼んだ。

「美奈…美奈!」

窓から身を乗り出し暗闇に向かって指先を目一杯伸ばす。
ヒヤリ
冷たいものが指先に触れる。
手を伸ばした方向を見た瞬間自分の顔が笑顔になるのがわかった。

「…美奈!」

闇の中から手を伸ばし、微笑みながら俺の手を握っているのは美奈。
まだ体の半分は闇に溶けていたが、それでもゆっくりとこちらに近づいてきた。
しばらくし闇から完全に這い出た美奈の体を引き寄せると、美奈はふわりと窓辺に舞い降りた。
そして生前と変わらない無邪気な笑顔を俺に向ける。

「久しぶり、崇史」

優 著