スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

優しくなりたいな (作者:あつこ)

優しくなりたいな 【9】〜完結

あの声も、少しだけ見えた彼女の姿も、歌い方も。
真弓を思い出させてしょうがなかった
違うに決まってるのに、どうしても諦めきれないこの僕を世間は馬鹿と言うのだろう。

1回、扉を叩いて話をすれば全て解決するのに
ちっぽけなプライドが邪魔をして、僕を決心に鈍らせた

知りたいと想った。
彼女のことを知れば知るたびどんどん知りたくなる
彼女を思い出すたびにどんどん、切なくなる
きっとそれは僕が目をそらしていたからだろう。

ただ一度、一度扉を叩いて挨拶をする。
それだけで全てが分かる もっと仲良くなれる。

眠れない。何でだか分からないけれど眠れない。

立ち上がり、僕は着替えた
寝ぐせも治した
靴も履いて、扉を開けた、閉めた。

コンコン、と夜の中歌声が響く部屋にノックした
歌声は止み、「はぁい、こんな時間に。どちらさま?」とドア越しに言葉を向けられた
聞けば聞くたび真弓に似ている、と想った
もっとこの声を聞きたい、彼女のことを知りたい。理由ってそれだけじゃダメなんだろうか。

「川崎です、引越しの挨拶のお礼したいのですが」
「あら、こんな時間に?すみませんね、今扉開けますから」

その言葉と同時にガチャガチャ、と鍵を開ける音がした
扉が開いた


その時、世界は再び桜色に染め上げられた




完結

あつこ 著