スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

UFOの見える丘 (作者:ひかる)

UFOの見える丘 【11】

ピーピー

「大丈夫ですかー翔さん、翔さん!」

目を開けたら、誰だかわからない
年老いて白衣を着たおじさんが目の前にいた。
周りは騒いでいる
「翔くんが目を開けてよかったね」とか「まだ元気よ」とか・・・

そうだ、思い出した。


俺は今、三途の川を渡りそうになってたんだ
ピーピーという音も、俺の心臓が止まりそうになって
機械が鳴っていた音だった


起き上がろうと思っても体が動かない。
そりゃそうだ、俺はもう80も過ぎたじいさんになってしまったんだから。

でも、なぜずっとここに寝たきりになっているのか、
昔あった温かい記憶も、優しかったぬくもりも
何もかも全く思い出せない。
「翔さん、記憶喪失になって体を動かさなくなったのもわかりますが、
 もう少し頑張りましょう」
「はい・・
「でも、なぜ記憶喪失がここまで続いてるんでしょうね
 もう60年も続いていますよ、何か衝撃的なことでもあったんですかね。
 今なら話せませんか。



この和室の窓から見える、昼の日差し
今の季節はなんなんだろうか
今日は、何日ぶりに目覚めたのだろうか
もう何もわからない。

この日差しが、何か、
誰かを思い出させようとする。

もう離さないと誓って抱きしめたあの夜・・・

あの夜、あの夜・・・

その瞬間、忘れていた記憶のすべてが繋がったように
今まで感じたことがないくらいの刺激が
脳にいった。

はっ、はっ

俺は呼吸困難に陥ったらしい。
また周りが騒ぎ始めている


そうだ、あの後は一緒に帰って一晩中二人で起きていた。
そして、空白の数日間をお互いが語り合って・・・
そしたら数日後、「一緒にきてほしい」とか言うから着いていったら
そこはあの丘。
胸騒ぎがしていた中で、
「もうウイリーに帰るときがきた」
慣れた日本語でそう言って、迎えにきたUFOに飛び乗った。
「さようなら」
あっさりした別れだった。

俺は何も言えずに、追いかけられない空を見ていた
そしたら、遠く、遠くの方で
窓から顔を出したその人が「ありがとうー!大好きよー!」そう言った。
俺も、俺も乗せてくれ
そう思い、いつの日か説明した涙を流した。
目をつぶって、自分もUFOへ乗り込む姿を想像しながら・・


すべての記憶が一致した

この太陽に似た笑顔の持ち主、シェリーのことを

ひかる 著