スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

テレビ (作者:ひかる)

テレビ 【5】

「ファーラー、少女が噴水に浸かっていたんだ。
「あら・・・濡れちゃって。お名前は?
「美加です。
「ミカ、どこから来たの?
「えっと・・・静かな東京の町から・・・
「トーキョー?どこかしら。デニー、知っている?
「いや、私でもわからんな。
「ここは、なんと言う街なの?
「この国には名前がないの。ミカ、この国の名前をつけてやってね。

なんて冗談じみたことを言われて、美加は一瞬、真剣に考えたものだった。

その日は、年に1度この国にある、あるお祝いの日だった。
そんなこととはつゆ知らず、出されたご馳走を満足げに食べていると
マントに身をまとった怪人が現れたのだ!
「キャー!

マント越しに見えた、デニーの笑顔。
ファーラーに「今日という日は、とても大切なのだ」、と説明を受けて
「なーんだ」とケロリとしたご様子の美加。

そんな、久しぶりな温かい時間も
美加は一生続いてほしい、と切実に願っていた。

「ところで、ミカ。家族は?
「・・・
「言いたくないのだろう、無理に探っちゃいけないよ、ファーラー。
それに、まだ赤ん坊が生まれていなくても、君の子どもは‘この場所’に確かにいるんだからね。
変な癖を受け継いでもらっちゃ、一緒に世話をする私も困る。
「それもそうね。・・・変な癖ってなによっ
デニーは冗談半分で言ったことも、すぐにカッカし出すファーラー。
赤ちゃんのためにも、ダメだ!ととっさに思った美加は、話題を変えようとした。

「そうだ、ファーラーはお腹の中に赤ちゃんがいるんだよね!
「・・・?」
大人たちが、豆鉄砲を食らったような表情で互いに目を見つめあっていた。
少しの沈黙があって、
「どうして知っているの?
口をあけたのはファーラーの方だった。
「私、知っているの。
「え?
「信じてもらえないかもしれないんだけど・・・

「ママに私もいるってことを気づかせたくて、立ち入り禁止だった倉庫に入ったの。」
「・・・それで、大きな本を見つけて読もうとしたわ。でも、ダメ。何語かわからないから、読めないの。
ずっと考え込んでいると、スッと体が軽くなって、まるで
本の世界に入って、それを見ている感覚だったわ。
私は透明人間でみんなには見つけられないんだけど、私は確かにそこにいる気分だったの。」

「へえ。
「その世界が、ここだったというのかい?
「そうなの。
「それで、汚い場面を見ちゃって涙を流してお願いしたわ。私も本の世界に行きたいって。
「と言うことは、ここは本の世界になっているのだね
「まあ!
「そうなのかなあ・・・ごめんなさい、私、まだ子どもだから、よくわからないの。
「いいんだよ、ミカ。深いことは考えないで。
きっと、ミカのお願いを神様が叶えてくれたんだな。
十分に楽しむといいよ、今を。
「ありがとう!!

小さな美加でもわかった。
美加は、初めて自分の存在を認めてもらえた気がした。

ひかる 著