スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

君が思い出になる前に (作者:LIJ)

君が思い出になる前に 【4】

笑ってくれたらいいのに。
笑ってくれたらよかったのに。


そう思って、昔と同じくらい自分勝手な己に頭が痛くなった。

これからまた数年、美穂に会うことはないと思う。 
もしかしたらもう一生会うことないかもしれない。 
そしてそのうちきっとまた、俺はさっきまでと同じように美穂のことを忘れ
ると思う。 

初めてつきあった子なんだけど。 
初めてキスした子なんだけど。 

だから、笑ってほしかった。 ちゃんと、笑ってほしかった。

でもそれは・・・。 

大きなため息が自然とこぼれる。 俺は、美穂が今幸せなのを確かめたいわ
けじゃない。 
幸せだと知って、安心したいとも思っていない。 
それなのに、ただ、笑ってほしかったんだ。 
笑ってくれたら、俺のこと許してるって確信できると思ったから。 
笑ってくれたら、俺も今の罪悪感から解放されるって思ったから。 


ただ、許してるっていうサインがほしかった。
ただ、それだけで。



遅いよ、とふくれた頬で俺を呼ぶ妹が、レジの前で荷物を指さす。 
嬉しそうなおかんと、まだ少し緊張した笑顔の彼女が俺を見つめる。 
俺の中で昔の美穂の面影も、今の美穂の後ろ姿も、途端おぼろげになってい
く。 
俺がしたことを許してくれたのかまだ怒ってるのか分からないまま、美穂は
俺の記憶の底に沈む。 うわずみに少し罪悪感が残るけれど、それもいつか
浄化してしまうだろう。 

だから、笑ってくれればよかった。
笑ってくれればよかったのに。
俺の中で、美穂が、思い出になる前に。




完結

LIJ 著