君が思い出になる前に (作者:LIJ)
君が思い出になる前に 【3】
そして、そのまま。
自然消滅という言葉が初めて使われたのは、医学や化学上必要な単語だから
ではなくて、
終わりを無難に迎えようとする男女間の摂理を表すという重要な・・・
「 ホントに、久しぶりね。 」
真面目な顔で美穂が言葉を返した。 頭の中が混乱してるのは俺の方だけの
ようだ。
そう思ったら、突然ひどい罪悪感に襲われた。
気がついてるのに電話にでなかったこと。 読んだけれど返信しなかったメ
ール。
履歴だけが残る携帯画面。 連絡しなかったこと美穂の11月の誕生日。
自分だけが終わったって思ったから別れたくって、
でもそんな状況でごたごたするのを避けたくて、なかったことにしようと逃
げてたこと。
笑えばいいのに。
笑ってくれればいいのに。
心底そう思った。
彼女がここで笑ったら、ああ、きっと今ちゃんと幸せなんだって分かるじゃ
ないか。
美穂が幸せでいてほしいと、あの頃だって今だって、俺はきちんとそう思っ
ているんだから。
「 最近誰とかと、会ってる? 」
「 まなみちゃんとか、さっちゃんとかとは時々会ってる。 覚えてる?
」
「 えーと、多分。 」
聞き覚えのあるその名前は、俺自身には接点なかったけれど
当時から美穂の口からよく聞く名前だったんだと思う。
「 深田くんは? 」
「 俺は、矢野とか丸小野とか、部活仲間がいまだいろいろと。 」
「 そっか。 」
店内はひどく騒がしくて、小さな子供がもう行こうよとかなんとか叫んでい
る。
その上迷子の店内放送が流れて、しかも師走な今をもっとせかすような音楽
がずっと流れて続ける。
それでも新年を迎えようとする日本のあの独特の雰囲気とか空気がいたると
ころに充満していて、みんな幸せそうに笑ってるように見える。
だから、笑えばいいのに。 美穂も、前みたいに。 周りの人みたいに。
そう思った途端、携帯が鳴った。
微妙に居心地が悪いこの2人の間の空気を切り抜けれるチャンスに恵まれ
て、
俺は嬉々として電話をとった。
「 あ、終わった? うん、じゃ行くわそっち。 レジんとこいて。
・・・はいはい。 」
そう話してる間に、美穂がかたりと席を立った。
あ、あれ、いくの。 俺ももう行くから、ここいていいのに。 もう邪魔し
ないし。
「 あの、三重野さん。 」
「 じゃ。 」
美穂は飲みかけのカップを持ったまま、さくさくと歩いて行く。
高校の時の制服姿や何度か見た私服姿とは全く違って、
厚いコートと高いブーツとちょっと高そうなかばんと、
それから見知らぬヒトのような後ろ姿が遠のいていく。
LIJ 著