スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

忘れられた歌姫と王子になれない青年(8823) (作者:カメ子)

忘れられた歌姫と王子になれない青年(8823)【7】〜完結

 住み慣れた、見慣れたこの街にさよなら。
あの時計台も、この広場や噴水、並ぶ石造りの家も 遙か奥に見える山々に
も、全てに別れを言った・・。

「取り敢えず、この車を捨てるよ。やっぱり高級車を走らせると目撃者が多
いし。馬車で乗り継ごうか・・・」
 自動車から降りる際もなるべく人目のつかない場所を選ぶ。
「今日は休まず一晩中歩いて隣の国を目指すよ。大変だと思うけど、良い
ね?」
「任せてください。もう、何処へでも行きますよ」
「・・じゃ、お手どうぞ。お嬢さん」

 わざとらしく“お嬢さん”というと、私には似合わないわと言いながらく
すくすと笑う。

 トゥオード? とまだ呼び慣れなうように、小さい声で誤魔化して言う。
「私、少しも不幸じゃなかったです。貴方がいつも来てくてたから」
「迷惑じゃなかったなら良かった」
「迷惑なんて。ちっとも」
「でも、初めは僕にそこまで来て欲しいとは思ってなかったんだろ?」
「正直言うと、私が気づいたのはあの会わなかった8日間なんです」
「本当に、最近だな。まぁ、もういいけど」



「ずっと、付いて来て」
「ずっと傍に居るつもりです」


「いえ、貴方の傍に居させてください」
「もちろん」

 家の明かりの消えた町で微かに光るだけの頼りないに月の光と暗闇に紛れ
ながら僕らは手をぎゅっと繋ぎながら歩き始めた。目指すは、行ったことも
ない知らない国。これからどうするなんて、まだ検討も着かない。








(完結)

カメ子 著 Plant