スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ【15】

本当はあの時、道連れにしてやろうと思った。
辛くて、辛くて苦しくて1人じゃ抱えきれないような思いを翔太にも分からせたかった

何も知らずに翔太が、左手をぽんと突き出したのは絶好のチャンスだとも思えた

私は、なんて汚い人間なんだろう
やっと出会えたここまで好きになれる人まで、一緒に傷つけば良いって思ってしまう。


―――私は、なんて汚い人間なんだろう。
好きで好きで好きでたまらないはずの人に私と同じ思いをさせようと思っている

好きでやってるんじゃ無い、あんなこと。
痛い、怖い、痛い、怖い。
二つの思いが混じりに混じって最高潮に達した時に「痛い」と、「怖い」と。
そう思って、「痛い」ことを嫌がる自分に
「怖い」と血を流すことをためらう自分に「生きたい」って思ってるんだと改めて思わされる

好きでやってるんじゃ、―――無い。

翔太の体には傷を付けたくなかった、
私と同じ思いをさせたくなかった。
こんな自分の体に傷をつけることで「生きたい」だなんて思わせたくなかった

もっと、別な。例えばスポーツでも勉強でも。―――恋でも。
そんな日常の些細な事で生きる意味を見つけてほしいと思った。

彼が私と一緒に死ぬのを認めてくれた時は涙が出そうなくらいに嬉しかった

この少年に、自分と同じ思いをしてほしい?それともしてほしくない?
悪魔が囁く。「傷つけろ、傷つけられる前に。」

「・・・・やっぱ、ダメ。やってあげない。」そう私が言うと翔太はねだる

腹いせと言ったらなんだか可笑しいけど私はカッターナイフをポケットに入れて笑って言った
「こんな気持ちいいこと、翔太にはさせてあげないよ、」
それでもまだねだって来るから「まだガキだから、ダメ。」と面白おかしく言ってやった

翔太には、ナイフは似合わなかった。

ダメだよ、こんなこと。
決して良いことでは無いって分かっている。
でも、これ以外に「生」を感じる方法が分からないの。

生きてる、ってちゃんと感じたいの。

ねぇ、私はここに居る?
ちゃんと、生きてる?
教えてよ。翔太。

あつこ 著