スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ【18】

それからまた地上を見てみた。
遠くって、落ちたらすぐに逝けそうだった。
でも、私はまだ死ねない。

翔太が居ないし、今日の月はまだ満ちていない。

もっと満ちて、満ちて、もうこれ以上無い!ていうぐらいに満たない限り私は、死ねない。
それまではちょっと余裕に、凄そうと思う。

甘い香りがする、金木犀の懐かしくって切ない、楽しかった日々の思い出。


金木犀の花言葉は、真実、初恋。それと思い出の輝き。

立ち込めては涙を誘われる、ありとあらゆる小さなものが甦る
翔太を呼びたくなる、

「―――寒」と思わず私は呟く。
何やってんだろう。誰かに答えてほしいの?馬鹿みたい、と自己嫌悪に陥る

カッターナイフと共にポケットに入れていた腕時計のライトを照らしてみた。

10時53分。もう11時と言ってもおかしくない時間だった。
帰って、宿題して、お風呂に入って、明日の支度して。

どうせ急いで帰ってもお帰り、なんて言ったり心配してくれる人すら居ないけれど
勝手に危機感を感じて私は立ち上がり、ドアへ駆け寄りドアノブに手をかけた

なんだか、気になって後ろを不意に振り向いてみた
予想通り、何も無いのだけれど何かが呼んでいるような、生まれるような変な気持ち。
少しだけ立ち止まって、辺りを見回して再確認をする

金木犀の香り、星の輝きとオムレツ型の月とコンクリートの地面
一瞬、その一つ一つが上手い具合に溶け合って、そこはとても美しく見えた

気のせいだとは思えないぐらいに美しくって、ずっと見ていたい気になったけれど
体の芯が冷えていたから、それは諦めて私は扉を閉めた

普段はここには誰も来ない、ましてや夜なんかに
こんな夜にここで翔太と出会えたのは奇跡と言っても過言では無いだろう
奇跡が生まれた、そのせいで私の胸はこんなにも痛い、キリキリと音を立てて崩れていく。

手が冷たい、翔太。温めてよ。1人じゃ私、何も出来ない。
死ぬことすら、あなたが居ないと無理みたい。

そうしてエレベーターを12階から屋上の階まで呼んだ、
するとなぜだか涙が溢れて来て、手で顔を覆っていた


ごめんなさい


ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい―――!
ひたすらそう呟いて、私は家まで戻った。

ごめんなさい――――

あつこ 著