スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ【19】

サオリさんの笑った顔が、泣いた顔が、全てが俺の裏で渦になってどよめいていた
でもどう俺があがいてもその涙を拭うことも、止めることも出来ないことはとっくに分かっていた。

風呂を沸かして、パジャマに着替えて明日の準備をして、ベッドに潜る―
そんな当たり前のことすら、今日はいつもとは違う。なんだか分かる。
サオリさんと会ったから?話したから?
ベッドの傍の窓のカーテンの隙間からさっき見た月を見つけた
眠くてよく覚えて無かったけれど、それはそれはため息が出るほどキレイで、

とても嬉しかった。


オレンジ色のノートに小さな丸い文字が転がっていた

「死ぬまでにしたいこと・すること」
・駅前のケーキ屋でアップルパイを買う(480円)
・青森の方のおばあちゃんちに行く
・今読んでる途中の本を全部読む
・借りてるCDをちゃんと返却する
・部屋の片付け
・遺書を書く


書き終わって、馬鹿馬鹿しくてため息が出た
なぁんだ、私のやりたいことってこんなもんなんだ。
ノートの表紙にはサオリ、と同じように丸い文字で書かれている


それにしてもどうしよう、最初に浮かんだのがアップルパイだなんて情けなすぎる
そんなにお腹減ってるのかな?ちゃんと晩ご飯は食べたんだけどなぁ。
カレンダーを見て再確認するけれどやっぱりあと4日しかない。
今日を含めて4日、でもあと2時間もすれば3日しかなくなってしまう。

CDは明日の下校中に返そう、本も今晩中に読んじゃおう。
あと45ページ弱、読み終えるかな?

部屋は明後日の放課後で十分かな、
遺書はしあさっての、死ぬ前に書こう。

おばあちゃんちは、多分無理だろうなぁ。嫌だなあ。会いたいな。


あ、そうだ、それとアップルパイ―――

明日CD返した後に買えば良いかなぁ、
本早く読み終えなきゃ。

そうして私は学校鞄の中に放られた一冊の単行本を手にとってベッドに寝そべる
あと45ページ。
早く読んじゃおう。

あつこ 著