スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

魚 (作者:あつこ)

魚 【8】

さようならがすぐ傍に近づいている 息を殺して僕らを見守っている
さっき、僕は一体何に別れを告げたのだろう。
この町に?海に?魚たちに、それとも観光客に、もしかして七海に。
七海にさようなら、この夏にさようなら。
この恋に終わりはあるの?
七海は海へ帰ってしまうの?
海に縛られている七海は波に消えるような小さな声で言った

「私はここから逃げられないの」
なんで、と尋ねてみたら表情を少しだけ歪めて小さく悲しい笑みを浮かべた
「私はこの海に呪われてるの、だから一生ここから抜け出せない」
「呪われてる?どういうこと。」

「きっと言っても分からないわよ、良いの。別に。」
「そんなこと分からないよ、言ってよ。七海を理解したい」
「良いの、全部なんて分からなくっても別に良いの。私は理解されようなんて思ってない、ただ私を受け入れて。好きでいて。」
「受け入れるよ、好きでいるよ。あぁ、ずっと。」




「全部なんて、分かり合えるはず無いもの。私たちは他人なんだから。違うんだから。でも認めてほしいし、受け入れてほしいの。」


それは僕に言ったのか、自分自身に言ったのか、それとも海に向けての言葉なのか、分からなかったけれど七海は確かにそう呟いた
確かに僕らは他人だし、お互い全然違う。でもだから惹かれあって、こうやって恋をした
違ったからこそ僕らは出会えて今、ここでこうやっている。

七海が海に運命を縛られているというのなら僕が解いてみせるよ
七海が言う、「呪い」から救い出してみせるよ
だから、きっとまたこの町に戻ってくるからそれまで待っていて。
この海で。

あつこ 著