君が思い出になる前に (作者:LIJ)
君が思い出になる前に 【2】
年末の騒がしい中、スターバックスもそれに息を合わせるかのように満員御
礼で、
並んで購入したモカをようやく受け取って、俺は座れる席を探した。
店内は広いけどそれでも空いてる席を見つけ出すのは至難の技。
ようやく見つけた壁沿いの席に心持ち早足で向かうと、ほっとした気持ちで
トレイを置いた。
そして顔をあげた途端、俺の中の血が一気に逆流した。
俺が座ろうとしてる隣のテーブルに、座っていたのだ。 三重野美穂、が。
ばちりと目があった。 と、思った。
けど、気がつかないのか焦点があってなかったのか、
美穂は何も表情を変えずに視線をまた読みかけの本に落とす。
その目から解放された気持ちになって、
俺は空気が抜けた風船みたいにふにゃりと席に腰かけた。
相手は壁沿いのソファ側で、俺は椅子で、隣のテーブルで。
これじゃ目をあげたら絶対ふつーにご対面な場所だろ、俺。
でもだからって今さら立ちあがってソファ席に座れねーし。
むしろこのまま自然に立ちあがって店を出るべきだろそうだろ俺。
そんなことが頭の中をぐるぐると高速で回転して、
やり場のない視線を目の前のカップに集中していたら、途端もっと恥ずかし
くなった。
苦い飲み物が嫌いな俺がコーヒーを飲み始めたきっかけは、美穂がモカをす
すめたからだ。
チョコレートシロップの入った甘いそれはいかにも俺の口に合って、それ以
来モカしか飲まない。
そして今目の前にいるのは、美穂と、モカ。 なにこれ、なんていうの、因
「 東京で就職したんだよね。 」
「 そう。 み、三重野さんは。 」
「 ここで就職した。 」
「 そう。 」
美穂と、俺は、つきあっていた。 高校2年から、3年まで。 たしか1年
と3カ月。
卒業して俺は東京の大学に行って美穂は地元の短大に入って、それからすぐ
に、その、終わったんだけど。
「 久しぶり。 」
声が、枯れた。
「終わった」というのはある意味捏造で願望だ。 俺らはちゃんと終わって
ない。
大学最初の夏休みに帰省して、浮かれた俺と高校時代から変わらない美穂の
間が
ひどく離れてしまっていたことを感じたから、それ以来連絡をとってなかっ
た。
電話も出なかったし、メールもあまり返さず、
そしたら美穂もそれと感づいたのか電話しなくなってメールもなくなった。
LIJ 著